最高裁判所第一小法廷 昭和54年(あ)1257号 決定 1980年11月07日
主文
本件上告を棄却する。
理由
弁護人佐藤進の上告趣意のうち、憲法三一条違反をいう点は、その実質は単なる法令違反の主張であり、その余は、事実誤認、単なる法令違反の主張であつて、すべて適法な上告理由にあたらない。
なお、所論にかんがみ職権をもつて判断するに、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(昭和五一年法律第六八号による改正前のもの。以下「法」という。)一四条一項は、同項但書の場合を除き、産業廃棄物の収集、運搬又は処分を業として行おうとする者は、当該業(以下「産業廃棄物処理業」という。)を行おうとする区域を管轄する都道府県知事の許可を受けなければならないとし、法二五条は、右一四条一項の規定に違反した者を処罰する旨定めている。ところで、本件において知事の許可を受けるべきであつた者は、産業廃棄物処理業を行おうとした原判示香川県廃棄物処理協同組合であり、したがつてまた、法一四条一項の規定に違反した者は右組合であるから、同組合の代表理事である被告人は直接法二五条によつて処罰されるわけではない。しかし、被告人は、右組合の業務に関し法二五条の違反行為をしたのであるから、法二九条に「行為者を罰するほか」とあることにより、右罰則の適用を受けるものと解すべきである(当裁判所昭和五四年(あ)一四五一号同五五年一〇月三一日第一小法廷決定参照)。したがつて、原判決が被告人の本件所為に対しては法二九条を適用すべきでないとしているのは誤りであるが、この違法は刑訴法四一一条により原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。
よつて、同法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。
(谷口正孝 団藤重光 藤崎萬里 本山亨 申村治朗)
弁護人佐藤進の上告趣意
原判決は憲法三一条に違反し、かつ刑事訴訟法四一一条一号・三号に該当するので、その理由を述べる。
原判決は被告人を有罪とした理由として法第一四条・第二五条一号をあげるが、右は法令の解釈を誤つている。
法第一四条は知事の許可を得なかつた作為義務違反を処罰の対象としているのであつて、収集運搬の行為を処罰の対象としているものではない。
しかるに原判決は「廃棄物の処理に関する契約の締結及びその収集・運搬がその代表者たる被告人の所為に帰せられ……個人の行為として存在し、……」と説示し、契約・運搬・収集の行為を法第一四条により処罰しうるとの見解を示している。
右は法令の拡張解釈であつて、右契約・運搬・収集の行為を処罰せんとするならば、「第一四条に違反し、廃棄物の処理に関し契約し、運搬・収集等の行為をしたもの」と明記するのでなければ罪刑法定主義に反することになり、現行法規の不備を原審の示した解釈で補うことは許されないものである。
仮りに原審の如き解釈が成立するとしても、被告人は公訴事実の全てにつき実行した者ではないから、右公訴事実を認定するためには二宮との意思の連絡につき刑法六〇条を適用するのでなければ法令適用に不備があることになる。
法人の場合にあつて、法第一四条の許可申請をすべき主体は法人そのものであつて、右許可不申請について個人として業を営もうとしたものではない被告人個人が処罰される理由はない(法第二九条が適用されたならば若干の主張を加えるつもりであつたが原審はこの適用を排除したので主張しない)。
以上要するに原判決は法令解釈の誤りにより罪とならない被告人を処罰しているものであるし、仮りにそうでないとしても審理不尽のまま被告人の行為を認定した違法があり破棄を免れないものである。
以上